
わたしを断罪せよ
岡林信康
1969/8
岡林信康氏の1968年9月作第一集盤
わたしを断罪せよ

です。日本のスティッフ・レコードのURCから発売。わたくしどこから見ても倭人なのに今年に入ってから邦楽本格入りいたしました。
断罪されてしまいます。

実際聴いたらされちゃったよ。入手三枚目のこのアルバムで。
一作目てことで今度はさすがにフォークだろうと思ったらフォークだった。形は。今じゃどうでもいいけど。一曲目「今日をこえて」でもろ「ライカ・ローリングストーン」の音が出て来て苦笑いたす。だって演奏もミックスもまんまでして、器用です真似ならばっちし日本人、お前もそうだろ、断罪するならしろって。
アカペラも有り、最後には丁寧な挨拶も入ってて容赦無き気恥ずかしさ、赤裸々丸裸でいいのかーって笑ってられるのもそこまでだった。
必死に笑ってたのだ。
どーんと来ます、そのあとじわじわと。
私にとって稀代の暗黒アルバムになってしまい。
どれくらい暗黒かってゆうと、母国人が英語丸わかりでジョイ・ディビジョン1st聴いたくらい、レゲエのカルチャーのアフリカ・スタンド・アローンを聴いたくらい、これは言葉わからんでも来ちゃうリー・ペリー氏のスーパー・エイプの逆襲を聴いたくらい。
それぞれちょうど大学入った頃、聴いたブツで、見事なくらい5月病にさせてくれたわ。
やばいです。こんな親父になって同じくらい来たよ。
怖くて何回も聴けません。
だいたいど真ん中に入ってる
山谷ブルース

がいかん。
有名な曲で名前は知っておりましたが、真正面から聴くのは初めてだ。
おおお、明日のジョーだ。泪橋だ。ってあまりのことに笑う。で、だから笑ってるのは最初の2秒だけ。
歌唄いでどうしょも無く生まれた方は、イタコなんだと思います。その身で見たこと聞いたこと浴びたことを歌にせざるを得ない。感受性てのが飛び抜けて強い。歌にして唄ってそのあとそれがどうなるかまではわからんけど唄わざるを得ない。
山谷とゆうのはご存知の通り、東京の日雇い労働者の集まるドヤ街で、実際に岡林氏は同志社大学から追んでたあと、そこで働いたと。伝説で勝手にこの歌を書く為に長期間滞在したとかなんとか言われ。実際は一週間だったとか。それでやることと唄うことが違うとか非難されたとか。
そりゃ一週間しか耐えられなかったと思う。強力なイタコがそこにいたら強烈な体験であればあるほど、それを吸い尽くしてしまい、抜け出せなくなっちゃうよ。はては歌どころか己崩壊になってしまうぞ。歌を作るために滞在なんてのは不遜極まる表現で、生きていくために働かざるを得なかったってそりゃ当たり前のことだ。訳有りで行き着く先がそこなんだから。
わたしは山谷には行った事がありません。でも、日雇いの人たちとビッタシ暮らしてたような時期がありまして。今の仕事やる前は建築会社の現場職員をやってました。文系出身なのに。バンドやりながら働いてるうちに縁が縁を呼んでそうゆうことに。バブルで建築ラッシュ、人手がそれこそ猫の手も借りたいって時だったんだな。
それでまあ知識は0みたいなもんでいきなし現場で監督しなきゃいけない羽目に。当然下っ端でありまんがな。下っ端がやることといやあ雑役、そしていわゆる土方さん、正式には土工さん、または雑役人夫と呼ばれる人に指示して仕事やってもらう。
色んな人がいました。
アル中で指ブルブルの人とか。だいたいが宿舎からバンに乗って送り迎えして貰う(途中失踪するのを防ぐためもあり)のが常なんだけど、人数が少ない時は交通費貰って現場に来てたんす。その人は、仕事終わってからワンカップが飲みたいためにその交通費を節約、宿舎までの2時間を歩いて帰っただよ。
その会社に入った時てのも凄くて、新宿からこれまた徒歩で厚木まで辿り着きたまたま有ったそこで拾われたと。
凄い仕事出来る人もいました。何でまたこの仕事やってるんだろうと思ったら、突然来なくなった。
何でも関西から人が迎えに来て帰ったとか。元板前さんだったとか。
持病持ちの人も。目の前で苦しんでても仕事をして貰わなきゃならない。何とか形だけカッコつくように考えたけど。
ブラジルから来た方々ともお仕事。全然働かずこれが。動いてもらうにはこちらから動かなきゃいかんと先頭切って必死こいたんだけど、そしたら、
「監督さん、何でそんなに働くの?」だって。
まともに聞かれて答えられなかった。
そりゃ怖かったからだ。生活出来なくなるのが。
この歌のむこうにはその怖さが見えます。もしそうなったらどうなっちゃうのかって。
今でも、何にも変わっちゃいない。

「だけどおれちゃいなくなりゃ ビルも 道路もできゃしねえ 誰もわかっちゃくれねえぜ」
「はたらくおれたちのよのなかが きっとくるぜそのうちに その日にゃ泣こうぜうれし泣き」
それから40年近く経ってます。まだうれし泣き出来ない。それどころか・・・。
どっかの首相が「努力しただけ報酬が貰える世の中が正しい」とかほざいてる。
人はそれこそ気が遠くなるほど色んな人がいます。
世間でゆう才能が有る人も、無い人も。要領よく金儲けが出来る人も、何をやっても金にならないことしか出来ない人も。
生まれつき金のある環境に育った人も、親から貰おうにもこっちから上げなきゃいかん人も。
それぞれ必死だったり、不真面目だったり、
それが社会とか国とかゆうもんじゃないか。
どんな人も幸せに生きちゃいかんて言うのなら、そこは人の国じゃなくてケダモノのただうろつく地獄ってことになる。
それを堂々と言ってる21世紀。
怖くて何回もこの盤を聴けません。
この直後、岡林氏は失踪(2回目になるのか)したらしい。けっこうええ加減な方にも思える。
ええ加減じゃねえとこのイタコ状態には耐えられないでありましょう。
失踪も出来るって、思えば勇気要ることで。どうやって暮らすんだろう。あなたには出来ますか?

(山)2007.2.19
Mr.Oのページ
でかいジャケットのページ
入手先参考、アマゾン
森達也『放送禁止歌』ドキュメンタリー (6/6)(”手紙”歌唱)
http://www.youtube.com/watch?v=4rdQ4VSoF0Q
The English translation page : here.